音楽業界には、企業に楽曲やBGMの提供を行い、生計を立てているフリーランスの作曲家がたくさんいます。
音楽で食べていきたい!と、この業界に憧れている人もいるでしょう。
ただ…そうは考えていても「具体的にどうやったら仕事に就けるのかがわからない」という人もまた多いはずです。
大っぴらに求人が出るわけでもなく、自分で切り拓いていかなければ道がないような業界なので、情報もあまり出回っていません。
今回は楽曲制作・BGM制作の仕事に憧れるあなたに向け、業界の全貌と仕事にしていく方法を解説します。
目次
楽曲制作・BGM制作の仕事とは
楽曲制作・BGM制作の仕事とは、企業が商用利用する音楽を作曲、提供して対価を得るものです。
企業が商品やそのプロモーションに音楽を用いる際、使用する楽曲を自社のクリエイターが作る場合ももちろんあります。
しかし音楽専門の部署を置いている企業は少数派で、ほとんどがフリーランスの作曲家に依頼する形で制作を行っているのが現状です。
その要望に応えて楽曲をつくるのが主な仕事内容です。
企業が求めるイメージに柔軟に対応する必要があるため、あらゆる音楽ジャンルの素養と高い作曲技術が必要となります。
採用難易度
それぞれ、業界ごとに楽曲が採用される難易度を表すと以下のとおりです。
業界難易度
業界 | 難易度 |
アニメ・ゲーム | ★★☆☆☆ |
音楽レーベル | ★★★★★ |
テレビ | ★★★★☆ |
ネット動画 | ★★☆☆☆ |
一番採用されにくいのはやはり音楽レーベル市場ですが、これはメジャーのアーティストを軸に考えた場合です。
インディーズになると競争率が低いため、ネット動画市場ぐらいに難易度が下がると考えられます。
その次は業界のコネクションが必須となるテレビ市場、次いでアニメ・ゲーム市場、ネット動画市場となります。
報酬・単価
楽曲制作・BGM制作の報酬額は、制作物によって大きく変わってきます。
たとえばメジャーのアーティストに楽曲提供をする場合、作曲のみで1曲5~10万円。編曲まで担当すると10~20万円が相場となっています。
歌なしのBGMの場合、相場は5分未満のもので1曲3~5万円。数十秒で終わるものなら1曲数千~1万円までが相場です。
これがゲームになると1作品丸々担当するケースが普通なので、曲数が重なって数十万の報酬を得られる場合が多いです。
制作物の内容 報酬
種類 | 単価 |
アーティストの楽曲制作(作曲のみ) | 5~10万円 |
アーティストの楽曲制作(作編曲) | 10~20万円 |
CMソング制作 | 7~10万円 |
BGM制作(5分未満) | 3~5万円 |
BGM制作(数十秒) | 数千~1万円 |
コンペ方式の場合
音楽レーベルの楽曲コンペで採用された場合、基本的には印税契約となるので、報酬はCDの売り上げ次第ということになります。
たとえば1,000円のCDが1万枚売れた場合、作曲家に入る印税は141,000円。10万枚売れれば141万円といったところ。
1曲でこの値段といわれると夢のある話にも思えますが、CD不況といわれるこのご時世では、コンペに採用されても報酬が100円に満たなかった…みたいなことがざらなようです。
楽曲制作・BGM制作の業界と市場
企業が音楽を必要とする場面によっても、楽曲制作・BGM制作の仕事内容は変わってきます。
具体的にどんな業界・市場があるのかを見ていきましょう。
アニメ・ゲーム市場
近年急速に需要が高まってきているのが、アニメやゲームのBGM・効果音を制作する仕事です。
特にゲームに関してはスマートフォンの普及により顕著な市場拡大が見られます。
一作品丸ごと担当するのが基本となるので、ひとつの案件で多数の楽曲を制作する必要があるのが特徴です。
世界観を演出することが重要になってくるため、ゲームやアニメに精通していることも求められます。
プログラマーとのすり合わせのため、ゲームエンジンなど、ゲーム制作ツールの知識が必要となることもあるでしょう。
そのため自社でクリエイターを抱えている企業もあり、楽曲制作業界では数少ない就職の選択肢がある市場です。
音楽レーベル市場
音楽レーベルに所属するアーティストが歌う楽曲を制作する仕事です。
有名アーティストに楽曲が採用されればネームバリューが一気に広がる、夢のある市場だといえます。その分採用の間口は狭く、長い下積みが必要となる場合がほとんどです。
レーベルは基本的にコネクションのある作家にしかオファーを出さないため、まずはレーベルに認知される必要があります。
そのためのアプローチとしては作家事務所に登録し、レーベルから事務所に案内のきた楽曲コンペに参加する方法が一般的です。
しかしこのコンペの参加者は1000人を超えるような場合もあり、採用されるのはまさにいばらの道となります。
テレビ市場
CM音楽、ドラマの劇伴、バラエティー番組のオープニングジングルなど、テレビ市場でもオリジナルのBGMが必要とされる場面は多いです。
CM音楽の場合は商品を販売する企業から、番組内で使う楽曲の場合はテレビ局からそれぞれオファーを受けることとなります。
普通の楽曲とは違い、15秒~という短い秒数で聴き手を惹きつける必要があり、メロディーセンスが特に問われる仕事です。
コンペなどの形式は少ないため、依頼を受けるためにはある程度、業界での実績が必要となるでしょう。
ネット動画市場
近年はYouTubeでのプロモーションに力を入れている企業も多く、ネット動画市場においても楽曲制作・BGM制作の需要が高まっています。
必要なスキルとしてはテレビ市場と似たようなイメージ。しかし掲載費がテレビに比べて安価なため、参入のハードルは下がります。
また企業だけでなく、個人のYouTuberに楽曲提供をすることもあります。
ただ、人気YouTuberの場合はファンが無償で提供をするケースも多く、そういった意味ではギャランティを期待しにくい面のある市場です。こちらはビジネスというよりは実績作りの側面が強いでしょう。
楽曲制作・BGM制作で採用されるコツ
楽曲がハイクオリティであることは絶対条件ですが、楽曲制作業界において、身につけておくと有利になる条件はそのほかにもたくさんあります。
以下の要素を意識してスキルを磨いていくことで、企業へのアピールポイントにできます。
楽曲制作の実績
楽曲制作の実績というのは、具体的に楽曲が商用利用された経験のことです。
なんらかの作品に携わっていれば企業から声がかかるきっかけにもなりますし、企業に営業をかける際にも経歴を添えると有利です。コンペなどに参加した際も、気に留めてもらえる確率は上がるでしょう。
制作ツールの使用経験
近年はDTMソフトも安価に手に入るようになり、ほとんどお金をかけずに作曲活動を始められるようになりました。
ただ、プロを目指すのであれば、そういった安価なものではなく「Pro Tools」「Cubase Pro」といった業界標準のソフトを最初から使うことをおすすめします。
というのも、DTMソフトはものによって操作性がまったく異なるため、業界標準のものに慣れていないと、実際の現場で作業を求められた際に対応できなくなるためです。問題なく扱えれば、企業からもやり取りしやすい相手と認識してもらうことができます。
楽器演奏能力
DTMを駆使して、楽器が扱えなくても作曲家を目指せる時代になったとはいえ、やはり楽器が演奏できることは重宝されます。それだけ音楽に精通していることの証明になるからです。
楽曲に生楽器が必要な場合、ほかにミュージシャンを雇えばいいというやり方もありますが、楽曲を依頼する際、楽器が扱える作曲家と扱えない作曲家、どちらに頼みたいかを考えれば明らかでしょう。
特にピアノ、キーボードは求められる場面も多いので、これから身につける人にはおすすめです。
読譜力
楽譜が読めなくても優れた楽曲を作ることはできます。
なぜ楽譜が読めた方がいいかというと、依頼主とのイメージの共有をしやすくするためです。
例えば修正依頼や細かい要望があったとして、どの部分をどういう風にしてほしいのか、お互いに楽譜が読めればスムーズにやり取りができます。
楽器ができる人でも耳コピ主体の人は、譜面に触れる機会が意外と少なくなりがちです。
音符記号までは読めないにしても、コード譜には日頃から慣れておきましょう。
職歴
前述のように、楽曲制作・BGM制作の業界でも、ゲーム市場などでは企業がクリエイターを雇っているケースがあります。
職務経験があればフリーランスになった際も、現場に慣れていると見なされ、仕事をもらいやすくなります。
そもそもそういった企業に就職するには実績がいるのでは…?と、思うかもしれませんが、未経験でもアシスタントとして、アルバイトのような形で雇ってもらうことは可能です。
ネックとなるのは求人が少ないこと、ゲームやアニメが好きな人でないと雇ってもらえる可能性が低いことでしょう。
楽曲制作で一番重要なのは実績
もっとも重要なことはやはり楽曲の質と、商用利用された実績です。
企業が欲しているのは楽曲であり、結局は楽曲の出来が8割がたの判断材料となります。
まずは曲を耳に止めてもらうこと、評価してもらうことが最優先。そのほかのスキルは仕事をもらうためというより、あれば仕事がやりやすくなるということだと捉えておきましょう。
そして実力と実績をつけるためには、まずはどんな形であれ、仕事につなげること。コネクションがなくても方法はたくさんあるので、いくつか紹介します。
楽曲制作の実績のつくり方
業界のコネクションがない場合の実績のつくり方を以下よりみていきましょう。
クラウドソーシング
ひとつめは「Crowd Works」「Lancers」などのクラウドソーシングサービスを利用することです。クラウドソーシングは業界の楽曲コンペなどと違い、一般層に広く募集をかけられるプラットフォームとなっています。
普通は業界にコネクションのあるプロに依頼するものですが、企業によっては楽曲制作にそれほどお金をかけられない場合もあります。そういった場合に、相場より報酬を下げてクラウドソーシングで募集をかけることがあるのです。
基本は誰でも応募でき、報酬は通常より下がっても実績になるため、駆け出しの作曲家にはもってこいのツールだといえます。
楽曲コンペに応募する
作家事務所に登録することで、音楽レーベルの楽曲コンペに参加できるのは作家事務所の登録にはデモの提出や面接などが必要となります。
実はそれほどの作曲レベルはいりません。
また所属するわけではなく、要は斡旋業者なので、複数の作家事務所に登録することも可能です。
作曲家志望の人はまず登録して、コンペの情報にアンテナを立てておきましょう。
コンペに採用されれば何よりの実績になりますし、採用されずとも、多くのコンペに挑戦することで自身のブラッシュアップにつながります。
企業に無償で提供し、それを実績にする
公募はしていなくても、音楽を必要としていそうな企業に直接営業をかけてみるのもひとつの手段です。実績がなくても、プロに依頼する相場より安い金額で見積もりを出すことで、興味をもってもらえる場合があります。
営業は電話でもいいですが、メールならサンプルを添付できるのが便利です。また企業でなくても、個人でゲーム開発をしている人やYouTuberに営業をかけるのもいいでしょう。
YouTubeで楽曲をアップする
YouTubeで自身の楽曲を発信することも立派な営業活動です。
概要欄に依頼用の連絡先を載せておき、再生数が伸びれば、そこから仕事の話につながることもあるでしょう。
ポイントは1、2曲ではなく、できるだけ継続してアップし続けること。そうすることで、おすすめへの表示確率が高まるためです。
また「Audiostock」など、著作権フリーの音楽素材を販売しているサイトを利用するのもいいでしょう。
自身が登録した素材がダウンロードされれば収入にもなりますし、Audiostockのサイトにプロフィールを載せられるため、宣伝効果もあります。
コミュニケーション能力が低いと単価が安くなる理由
最後に、楽曲制作の業界では依頼主との信頼関係が報酬と密接に関わってくることに触れておきましょう。
楽曲制作の仕事は業務委託である関係上、自社の社員のように、依頼主がクリエイターの働きぶりを管理したりはできません。
となると、うまくコミュニケーションが取れない場合「ほんとにこの人はちゃんと仕上げてきてくれるんだろうか?」と、不安を抱くのが自然です。
そのため、期待に添えない成果物が上がってくる可能性がある場合、企業はリスク回避として複数のクリエイターに依頼するのが基本となっています。
こういった場合一人あたりに出せる報酬は減り、得てして低単価にならざるを得ない現状があるのです。
低単価を脱するためには
もし楽曲制作の仕事をもらえた場合、どんな楽曲が必要とされているのか、依頼主とはできるだけ密に連絡を取り合いましょう。
- 事前に楽曲のイメージをしっかり聞き出しておく
- おおまかに作ってみてイメージに相違がないかをすり合わせていく
- 完パケはいつになるか早めに知らせておく
という風に逐一確認を取りながら作業を進めていくことが大事。会社員でいう報告・連絡・相談というやつです。
こういったことの積み重ねで信頼を得ていけば、依頼主はほかのクリエイターを頼る必要もなくなり、必然的に単価が上がっていきます。